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Ⅰ. 睡海夢泳《すいかいむえい》
夢。
そう、これは、深い深い、底の見えない蒼黒い海の中にいる、夢。
でなければ、水嫌いである私がこんなところを彷徨っているはずがないと。
こぽこぽと銀の泡を吐きながら思う。
それにしても。
ご主人と入るお風呂は苦手だけど、ここはなんだか居心地が良い。
……そうだ。
次いつ深海の夢を見るか分からないし、少しこの辺りを散歩でもしようか。
ゆらり、私は短い四肢を動かして底の方へ泳いでいった。
そうして、どれくらいの時が経っただろうか。
泳ぎ疲れた私は、気儘に進む透明な龍に乗っかり一休みする。
「……?」
バブル音、というのだろうか。
不規則に浮かんでくる泡たちの声。
それが一瞬何かに当たって途絶えたような気がして、私はじっと底に目を凝らした。
私の視線に気付いたソレは、最初逃げるように下へ下へと泳いでいったが、何を思ったのか直ぐに私の傍まで浮かんでくる。
私の白い体をそっと抱き締めて、ソレは歌うように囁いた。
「おかえり、ワタシの片割れ」
嗚呼、アナタは。
遠い昔、空腹のあまり砂浜で食べてしまった、人魚の片割れ。
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