同期と捩れて寄り戻す

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「新人教育、明日なんだってね」 洗面所に居る上京が水を流しながら顔を洗うから聞き取りにくいんだけど。何て? 「しんじんきょういく!」 「大声出すな、上京」 茹でたささみを手でちぎりながら諫めるが「聞いてないだろ!」と追い打ちをかけられた。 「聞こえなかったんだよ、悪い。明日からだけど何?」 「あのきのこ、気が合わないと思うんだ」 きのこ。 「ああ、瀬戸か。確かにマッシュな髪型してたな。背は上京より少し高いくらいか」 「へえ? よく見てたな」 「あれだけ近寄られたら見るよ」 レタスを敷いた皿にささみを乗せる。これに胡麻ドレッシングなら、いくら食の細い上京でも食べるだろ。食べなかったら口に押し込んでやる。 「距離感無さそうだし生意気だ」 「生意気って、おまえが言うのか」と吹き出したら足を蹴られた。 「おい、ささみを落とすから蹴るな、上京」 振り返ったら仰天した。 「おまえ、何してんの」 ウサギの耳のヘアバンドしている。おでこ全開。だれだこいつ。 「菊原課長がくれたんだ。使わないといけないだろ」 いや、似合うけど。 上京は元々小顔で可愛い顔してるからな。何か、可愛すぎて笑えるな。 「社内でそんな姿晒すなよ、またおまえを可愛がる奴が増えるぞ?」 「生田、何、笑いをかみ殺してんだ」 「今度、普通のヘアバンド買ってやるよ。何か目の毒」 「そうか?」 面白いな、社内では隙の無い気位高い系の上京がお子様みたいだ。 「一応、その顔を菊原課長に送信したら? 喜ぶよ。おまえを可愛がってくれているんだからさ」 「そうなのか?」 「ああ、前髪は下ろした方がいいと思う。そのほうが似合う」 「ふうん」 あ、横から見ても、やっぱり似合う。 「どう?」 正面見せるな馬鹿。動揺するだろ。 一緒に住み始めてから最初の春は波乱の予感だ。
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