天使と守護者

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 真夜中の家というものは、別世界のようにも思える。普段は明るい照明のもとで家族のにぎやかな団欒が家中を駆け回っているが、明かりも消え誰もが布団に入り眠りにつくと、まるで先ほどまでの世界は夢だったかのように暗く静かで、この廊下の先にある君の両親の寝室の前の扉、そこに白装束を着た髪の長い女でも立っていたほうがしっくりきてしまうくらいに。  特に君の家は賑やかだから──妹の夕月ちゃんを中心に、おしゃべりの絶えない母親、相槌をかかさない父親、そして笑う君──この音のない夜の世界はとても物悲しい。  と、君の両親の寝室から物音がした。しばらくして、扉が開くと小さな足音を連れて誰かが出てくる……夕月ちゃんだ。通り道が暗いと怖いのだろう。念入りに進む道を照らす明かりを点けながらそのままトイレへと入っていく。もうすぐ小学4年生になるのか。まだ両親と同じ寝室で眠っている彼女だが、そろそろ自分だけの部屋を欲しがるに違いない。その時今現在2階の部屋すべてを占有している君が夕月ちゃんとどんな戦争を起こすのか、それを想像するだけで笑みがこぼれてくる。どうか平和に決着がつきますように。  しばらくの後トイレの流れる音がして、小さな足音がそのあとに続く……その音が突然止まった。 「……誰かいるの?」  思わずドキリとする。彼女が私のことに気づくはずがない。わかっていても身体が硬直してしまう。 「……な、なんみょうほうれんげーう、うーきょーうー……」  その可愛さに吹き出しそうになってしまった。なるほど、夕飯時にみたホラー映画を思い出していたのか。可憐な君の妹にばあ、私だよ!と姿を見せたらどうなるだろう。どんな反応を示すのか、それを想像すると試してみたくなるが、そんなことはできない、できるはずもない……。  もごもごと何かの呪文を呟いていた夕月ちゃんだったが、恐怖よりも眠気が勝ったのか両親の眠る寝室へと戻っていった。明かりも消え、家がまた暗闇に包まれる。私は小さく息を吐く。この暗闇が私の世界だ。まだあの明るい場所へはいけない。でもいつか、あちら側へいけたらいい。そう思いながらゆっくりと階段を上る。二階一番奥の部屋、君の部屋へ。
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