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外に出ると雪はやんでいた。地面にうっすらと白が残るばかりで、明け方には雪が降っていたことなどなかったかのように溶けて消えてしまうだろう。どこかから小さくサイレンが聞こえてくる──無音の暗い世界ではそれはひどく煩い。
君の部屋の窓を見上げる。ふと、窓を隠すカーテンが揺れた気がした。そこから君が姿を現して私に手を振ってくれる。そんな願いがある。
空を仰いだ。何一つ光のない真っ暗な闇。一度覗いてしまえばもう二度と戻る事の出来ない深い深い黒──
その暗闇から一つ、小さな光が落ちてきた。
ふわりふわりと舞うように、ゆっくりと。
それはまるで──天使の羽だった。
私は手を伸ばして掴もうとするが、羽はからかうように指の隙間をすり抜けて、私の目尻へと着地した。
ただただ冷たくて──それでも溶けてしまう。やがて雫となって私の頬をつたい、羽は顎先から落ちていった。
私は泣いていた。あの時のように。でも君が助けに来ることはない。それでいい。君には幸せな夢を見ていてほしい。笑顔でいてほしい。サイレンが煩い。静かにしてほしい。叶わない願いがある。伝えたい想いがある。それでも君が愛してくれたら。君が私を見つけたように。もう一度、君が、私を、私がここにいると──
「──あの、大丈夫、ですか?」
──声がきこえた。
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