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両手を添えて障子をあける。深呼吸をしてから体を部屋に滑り込ませた。第一段階成功。
四つん這いでおじいちゃんの枕元へ向かう。
覗き込むと寝顔のおじいちゃんはニコニコしていた。はじめて見るおじいちゃんの笑顔。しばらく眺めてしまう。
「いつもこんな顔してくれたらいいのに」
呟くと同時にスイッチが入ったかのようにおじいちゃんの目が見開かれた。
悲鳴をあげそうになって自分で口を押さえる。雨戸のガタガタよりびっくりして心臓が縮みあがる。
おじいちゃんが上半身だけを起こした。起こしてしまった。早くも作戦は失敗だ。どうしよう。言い訳、考えないと。
あ、そうだ。お手洗い、に行こうとして雨戸がガタガタ鳴るのが怖くて逃げ込んだって言おう。
「せいこ、おまえなにしてる?」
おじいちゃんが腰を抜かしている私を見てそう言った。
「せ、いこ?」
「なに言ってる。おまえの名前だろう」
私はあおいだよ、と言いそうになって気がつく。せいこはおばあちゃんの名前だ。おじいちゃんは寝ぼけている。私をおばあちゃんだと思っている。
「なにしに来た」
「えっと……」
「はっきり喋れ」
いけない、いくら寝ぼけているとはいえ人の本質は変えられない。ちゃんと喋らないと大きな声だされちゃう。
「おとう……晴一は、もう子供じゃない」
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