死にたがりの町娘

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文明開化。なんと素敵な響きだろう。牛肉、レンガ、コウモリ傘…。何もかもが風のようにこの日本を変えていく。それでも変わらないものもある。 死にたいな。 毎日そう思う。 家は呉服屋。うちの着物はとても人気がある。お金には困らない。 死にたいな。 今日もそう思った。 私にはやりたいことがある。着物ではなく、洋服をデザインしてみたいのだ。 死にたいな。 両親に私の想いを勇気を出して伝えた。 父には、「女が馬鹿なことを言うな。お前には半年後結婚してもらう。妻として夫を支えるのが女の仕事だ。」と言われた。 母には「女の子が、'やりたいこと'ですって?変なことを言わないで頂戴。」と笑われた。 思わず家を飛び出した。店の者に「お嬢さん、どこ行くんですかい?」と声をかけられた。聞こえないふりをした。世の中の見た目はどんどん変わっているのに、日本人の中に凝り固まった思想は変わらない。女の子は夢を見てはいけない。女の子は結婚して家庭を守ることが仕事だ。何もかもに嫌気がさした。走りにくい下駄も、うちの店の着物も脱ぎ捨てたかった。 どれくらい走っただろうか。目の前にレンガ造りの建物が現れた。こんなもの、あったかしら?怖さよりも好奇心が勝って、恐る恐る中に入る。扉をくぐると目の前に大きな窓が現れた。こんなに大きな…ガラス?一体いくらしたのだろうか、と窓に近づいた。思わず声をあげた。窓の外を歩く人たちは全員洋服を着ていた。髪を結っている人などいない。中には髪の色が茶色だったり黄金色だったりする人さえいた。見慣れないものがたくさんあった。食い入るように見つめていると、あることに気がついた。女の人が、店で洋服を売ったりしている。女の人が、大きな紙に服を描いたりしている。そこは男の人だけではなく、女の人も自分のやりたいことをしている世界だった。 目を凝らしているとある数字が目に入った。2018.8.20。もしかして、もしかして。この風景は未来の日本なのではないか。いつか、女の子もやりたいことを許される時代が来るのではないか。それは確実に明日ではない。でも、5年後かもしれない、10年後かもしれない。そう考えたら、死にたいなどと思うのが馬鹿らしくなった。だって、未来に私のやりたいことが叶うかも。それなら、それまで、生きてやる。時代になんて、負けるものか。
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