0人が本棚に入れています
本棚に追加
サーフィンってのは夏だけのスポーツだと思ってた。
まさかまだ肌寒い春の日差しの下でやってるとは思ってもみなかったし、まさかそれを眺めながらカレーを食べることになるとは思わなかった。
カレーは美味。超美味。日本の市販のカレー粉のレベル高すぎるよね。半端じゃない。インドカレーも好きだけど、私はジャパニーズカレーが、市販のカレー粉を溶かしただけのものが最高に好き。甘口でも中辛でも辛口でもなんでも。
ああ、カレー美味しい。美味しかった。
「……現実逃避終了でーす」
カレー食べてる間しか出来ないから、結構のんびり食べてたんだけど、とうとう皿が空になってしまった。片づけだったすぐに終わってしまう。もう目の前の寒そうな海を見るしかない。
何人かのサーファーに紛れることなく、私の昔の友人が、目の前の波に乗っている。
それだけなら別に大したことじゃないと思うんだけど、楽しそうにサーフィンしてるあの男は、十年間消息を絶った男だ。死亡扱いされて、あいつの葬式に私は出ている。
あいつは幽霊なのか。違う。じゃあ私が死後の世界に来てしまったのか。それも違う。
正真正銘、十年間あいつは何処かで生きていたらしい。
昔は私よりも細くてかわいらしくて優しくて穏やかな奴で、大人になるまで変な虫がつかないように守ってやらないと、なんて勝手に思っていたくらいだったんだけど、サーフボードに見事に乗っているあの男を守る必要があるだろうかいいやない。
最後にあいつを見た記憶は、高校生の頃。それまで小学校からほとんど変わらずにいたのに、そこから比べると、おそらく三倍くらいには膨れ上がってる。筋肉で。背も伸びてる。ボードが短く感じるのは、私だけじゃないだろう。遅れてきた成長期すぎる。
突然実家から電話がかかってきてあいつが帰ってきたとか言われた時にはもうボケたのかと思ったけど、地元に残ってるやつらから軒並み連絡が来て、どいつもこいつも私をあいつに会わせようとしたから、しかたなくこうして帰ってきたわけ。仕事が丁度連休になったから。なのに家を訪ねたらあいつは海にいると言われて、そのまま海に向かったら、遠目でわかるくらい目立つサーファーがいて、それがあいつだった。
見た目はかなり変わっているのに、なんだか私にはそんなに変わっているように見えなかった。超矛盾。
というか、有言実行したんだな、くらいに思った。
最初のコメントを投稿しよう!