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目が合って、尻尾が見えそうなほど目を輝かせてこちらにかけてきた時は迫力に気圧されたし、天使の声とか言われていた高い声は野太く変わってたけど、「さっちゃーん!」と手を振って駆け寄る姿は、何も変わっていなかった。
大男が目を輝かせて私に駆け寄ってくるのがなんかツボで、腹筋つるまで笑ってしまった。笑われてる理由がわからないから、ずっと「なになに?」「どうしたの?」と首を傾げているのも、それに拍車をかけた。
やっと落ち着いて、話してみても、十年会ってない感じがしなくて、昔みたいにふざけて、筋肉を触らせてもらって、肩車してもらったり腕につかまらせてもらったりして、二時間くらいあっという間に過ぎた。そうそう。時間、すぐ過ぎちゃってたよね。あの頃もさ。
私が疲れて階段に座り込むと、何処かに走って行って、鞄を持ってきたかと思うと、その中から水筒を出してお茶を汲んでくれた。
飲みながら、波の音に促されるように口を開いていた。
「お前の葬式で私泣いたんだぞ。あの涙返してよ」
「え、さっちゃん、泣いたの? ごめんね」
「まったく。何処行ってたの」
「わかんないんだよね」
「なんでだよ」
「気がついたら森の中にいてさ、なんか大きな島だったんだ。凄い怖かったよ。どうして今こうして生きているのか、不思議なくらいだ」
「そりゃ、藤岡弘のおかげじゃない?」
「うーん。それも、あるのかな。まあ、確かに、あの人みたいになれたら死なないかなって、目標にはしてたかも」
「私はてっきりその為に消えていて、今その肉体を手に入れたからようやく帰ってきたんだと思ったよ」
「そんなに行動力は、今はあるかもだけど、あの頃はなかったよ」
「じゃあマジで、神隠しみたいなのにあったってこと?」
「たぶん。だって、あそこが何処だか、僕わからないもん」
「どうやって帰ってきたの?」
「海で魚を取ろうと思って、素潜りしてたんだけど、魚とって海面に上がったら、この海に出てたんだ」
「意味わかんないね」
「うん」
「どんな島だったの?」
「えっとね、動物は普通にいるんだ。あと、僕の前に誰かいたみたいで、ナイフとかあったりして、おかげで生きられるかもって、ちょっとだけ希望が湧いたりしたんだ」
説明しながら、砂に島のおおよその全体図を描いてくれる。歩いて見て感じただけという想像の入ったそれは、星のような形をしていた。
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