April fool

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惚れた者の負け。 そう言われたって、どれだけ負けたって、何回繰り返したって、なにをしたって満たされない。 初めて会ったのは大学に入ったばかりの頃。 友達といえる友達もいない中で、少しずつまわりと親しくなろうとしている頃。 講義に出ると、その子がいた。 背が低くてショートカットで活発そうな女の子。 顔は目が大きくて、鼻が小さくて、少年というよりも美少女。 ショートカットがよく似合う可愛い子。 一瞬で目を奪われた。 小さくて可愛い。 少しでも近づけるように、その席のそばに何気なく陣取る。 講義中も横目でちらちら眺めていた。 勉強をしている横顔も可愛い。 髪を伸ばしたら、きっともっと可愛くなる。 その講義のたびに近くの席を陣取って、ドキドキしながら眺めていた。 話しかけるタイミングがわからなくて、ただ見ているだけ。 次こそはと話しかけようと思っているのに、なかなか声をかけることができなかった。 それでも今日こそはと、講義が終わって席を立つときに俺から声をかけた。 「あのっ」 彼女は俺を不思議そうに見上げてくる。 次になにを言えばいいのか緊張して言葉がまとまらない。 言いたいことはたくさんある。 聞きたいこともたくさんある。 なにかナンパしているこの状況が恥ずかしい。 「友達になりませんか?」 なんとか言えたのはそんな言葉で。 それでいいのだけど、それでよくない気もして、なにを言ってるんだと自分に恥ずかしくなる。 精一杯の言葉だったのだけど。 撃沈したような気分で、なんでもないですと取り消してしまおうと思ったのに。 「うん。いいよ。名前教えて?私は立花千代」 彼女は明るく笑って答えてくれた。 笑顔がめちゃくちゃ可愛い。 こんな可愛い子、俺、他に見たことない。 「的場晴季っていいます…」 「ご飯食べにいかない?私、お腹空いちゃった」 俺は緊張しまくっているのに、彼女はなんでもないことのように俺と話してくれる。 しかも誘ってくれる。 俺の初めての恋愛はそこから始まった。 自分をアピールするなんて苦手だったけど、がんばってアピールして、なんとか俺の彼女になってもらったのは1ヶ月たったか、たっていない頃。 すごくうれしかった。 ずっとラブラブでいようなんて目標をもって、このつきあいを大切にしようとした。 彼女は俺が思うよりも手強かった。
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