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【山の祭壇】
「鬼様!この夏はこれが精一杯だで、どうかこれで許してくだせぇ。秋に米が取れたら必ず納めに参りますだで、どうかうちの娘だけは勘弁してくだせぇ。」
「なぁ婆様、鬼様はそんなに怖ぇだか?」
「ああ、とっても怖ぇだで、決して一人で山に入ってはなんねぇぞ。
もし鬼様に会っても、決して眼を見てはならねぇ。なんと言っても鬼様は、この世のものとは思えん青い眼をしておって、眼を見た者は動けんようになり、あっという間に喰われてしまうだでな。」
「怖ぇ。おら怖ぇよ。」
「ああ、だでもう暗くなるで、早う山を下りよう。」
(鬼っ子、村人がいなくなったのを見計らい出てくる。村人が置いてった作物に手を合わせ、作物を持とうとする。)
「驚いた。鬼も手を合わせるのか。」
(鬼っ子、刀を抜き、佐助に向かって構える)
「待った!
俺は今、お前さんを傷つけるつもりはねぇ。
いや、そのつもりで山に入ったんだが、少し気が変わったんだ。」
「お前も役人に鬼退治を頼まれた人間か。俺の姿が恐ろしくて鬼退治を諦めたなら、さっさと山を下りろ。」
「作物に手を合わせることも驚いたが、達者に言葉を話すことといい、皆が言う鬼とはえらく違ってるな。
ああ、俺は確かに鬼退治を頼まれた人間だが、お前さんの姿に怯えて鬼退治を諦めたわけじゃねぇ。鬼と呼ばれるお前さんが、人と同じ言葉を話し、作物に手を合わせている姿を見て少し興味が湧いたんだ。」
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