春のはじまり

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「うち来る? やっぱ本人を目の前にした方がいいし」 「あ、うん。それもそうだね。でも急に行ったりして平気なの?」  そしてそれに、真奈美はあっさりすぎるほどの口調で返した。  がく、と正人が頭を垂らした。そのまま額に手を当てる。 「……どうしたの?」 「いや……」  何か堪えるように正人は頭を振り、真奈美はそれを不思議そうに見つめた。 「何でもない。そーいうことにしよっか」 「うん。じゃあホームルームのあとね」  真奈美は笑顔で正人にそう言った。楽しそうに踵を返し、自分の席へと戻っていく。  その後ろ姿を見つめながら、正人が小さくため息をはきだしたのにも気付かず、真奈美はどこまでも平和さを身に纏っていた。 「やっぱ石井って相当強敵だ……」  つぶやいた言葉は彼女に聞こえない。  春は、まだ始まったばかり。
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