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――このままじゃ、この子は死んじゃう……。
死。
その言葉が頭に浮かんだ瞬間、すううっと身体から熱が奪われていった。心臓だけがどくどくと波打ち、真奈美はその場に立ちすくんだ。
「……石井?」
びくん、と身体が震え、真奈美は声の方へ振り返った。
紺色の傘をさし、不思議そうにこちらをみる人物――見知ったその顔は、同じクラスの高田正人だった。
「たか、だくん……」
じわっと目尻に涙が浮かんだ。それを見た正人はぎょっと目を見開き、狼狽の色をあらわした。
「ちょ、何、どうしたの? 俺なんか悪いことした?」
「ち、違……」
真奈美はすがるように正人の制服を掴んだ。
タオルにくるまれた子犬を彼に見せる。
「こ、の子、死んじゃう……」
「え? 犬?」
「さっき、そこで見付けたの。もうすごく冷たいの……」
消えていってしまいそうな命を閉じこめるように、真奈美は子犬を抱きしめた。正人は震える子犬を見て状況を理解したらしく、神妙な顔で頷いた。
「病院に行こう」
「病院……?」
「駅前、動物病院あるから。大丈夫、間に合うよ」
「う、うん……っ」
力強い正人の言葉に励まされ、真奈美は頷いた。
子犬を抱きかかえなおし、正人のあとを追って駅までの道を走り出した。
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