春のはじまり

6/14
前へ
/21ページ
次へ
 外に出ると、もう辺りはすでに暗くなっていた。雨は止んでいるが曇り空なのは変わりない。少し湿った風が真奈美の頬を撫でていった。  いつも通りの帰宅路を歩きながら、いつもとは違う帰り道。  隣には正人がいて、普段男の子と2人きりで歩くことなど滅多にない真奈美は少し緊張していた。 「家まで送ってくよ」 「ええ、い、いいよ、そんなの悪いよ」 「あはは、そんな慌てなくてもいいって。送らせてよ。……あ、それともそーいうのって迷惑?」  少し心配そうに尋ねてきた正人に、真奈美は慌ててはち切れそうなくらい首をぶんぶんと横に振った。 「ち、違……、そんな、だって遠回りになっちゃうでしょ?」 「そんなことないよ」  けれど正人はそんな真奈美ににっこりと微笑むを向ける。真奈美は彼を見つめたまま足を止め、それから慌てて口を開いた。 「……あ、ありがと」  少しだけ赤くなった顔を隠すため、小さく俯いた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加