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神泉の駅を過ぎると、井の頭線の車両内は一瞬にして薄暗くなる。
乗客はほとんどいなくなり、車輪の擦れる轟音だけが響き渡る中、三ノ宮リウはコンバーズの紐をきつく結び直した。
「次は終点、シブヤです。JR線、東急線、地下鉄線はお乗り換えです」
車掌のアナウンスに呼応するように、隣でリウと同じ制服を着たみやちんとすぎちんが深呼吸している。
何度味わっても慣れない緊張感。
下手クソなストレッチで身体をほぐす2人の友人に向かって、リウは静かに気合いを入れた。
「みやちん、すぎちん。死ぬなよ」
言葉は発せず、2人が微笑む。
もしも今日が最後の日になったとしても、後悔はないとでも言うようだった。
たった17年の人生。でも、俺たちは戦うことを選んだんだ。
リウが微笑み返すと、井の頭線は速度を落とし、やがてシブヤ駅に停車した。
「ご乗車ありがとうございました。シブヤ、シブヤ、終点です。どなた様もお忘れ物の無いよう、お確かめください」
車両のドアが開く。
リウとみやちん、すぎちんが井の頭線のホームへと降り立つと、他の車両からもチラホラと人が降りて来る。
男女問わず鋭い眼差しをした乗客たちは皆リウと同じ、市民のレジスタンスだ。
静まり返った駅の構内。リウたちレジスタンス以外の人気はなく、ホーム前方には固く閉ざされた12の改札があるだけ。
設置された時計を見上げると6時59分を指している。
リウは膝を柔らかくするように数回ジャンプし、ふっと息を吐いた。
今日こそは、今日こそは必ず、突破する。
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