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辺りに戦士はひとりもおらず、ただリウの降りて来たエレベーターだけが動いている。
しかし、何かがいる。
リウが剣を握ったまま次の一歩を踏み出せずにいると、背後から低い声がした。
「ここを何処だと思っていやがる」
振り返ろうとした次の瞬間、リウは吹っ飛ばされ、壁に身体を強く打ち付けた。
そして思わずその場にうずくまり、漏らしたうめき声と共に目を開けると、ひとりの戦士がリウを見下ろしていた。
長身の体躯に獣のような眼差し。
間違いない。
「ケルベロス……!」
はじめて目の当たりにするこの男を前にして、リウは先ほどまで感じていた気配が殺気だったのだと気付き、そして彼こそが噂に名高い、シブヤ駅を難攻不落にしている張本人だと悟った。
ケルベロスはリウの頭を長靴で踏みつけ、吐き捨てるような口調で言う。
「この先は聖都だ。てめぇのような市民のガキが通れる改札じゃねぇんだよ」
その言葉と共に、リウは首に生ぬるい痛みを感じた。ケルベロスの剣に頸動脈をゆっくりと切られているのだ。
あぁ、死ぬんだろうか、ここで。
「俺は……ただ……」
「あ?」
悪あがきでも構わない。リウは最後の力を振り絞った。
「俺はただ、電車に乗りたいだけだ!!」
リウが振り上げ剣はケルベロスの太ももをかすめる。
退いたケルベロスに対峙するように立ち上がると、リウは遠のいて行く意識を取り戻すように叫んだ。
「俺の学校は中目黒にある!だから!!電車に乗せろ!!」
ケルベロスは太ももの傷を指で確かめ、リウを睨む。
「中目黒か。なら、下北で乗り換えろ」
「お前に言われる筋合いはない!!」
リウは叫びながらケルベロスへと向かって行った。
取り戻すんだ、自由を、理不尽な迂回を強いられているこの世界を!!
リウが切り掛かろうとしたその刹那、ケルベロスは口の中で何かを呟き、自らの剣を鞘から抜くと、風を切る速さで振り抜いた。
あぁ、終わる。
辺りは白く光りに包まれ、そして地面や壁が崩れ落ちるのを感じながら、リウはその視界の端に表情を変えずにいるケルベロスを見た。
てゆーか俺、一体、一体……
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