暴君とクリスマス

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(ひゃぁぁ~~つい妄想に耽っていて天眞の気配に気が付かなかった!) クリスマスイブとはいえ平日なので天眞は朝から仕事に行っていた。 「飯は? 何か作ったのか」 「あ……うん。今日は茸が安かったから色んな茸の炊き込みご飯を作ってみたの」 「へぇ、偉いな」 天眞の大きな掌が私の頭をいい子いい子するように撫で回す。 (本当にもう! 飴と鞭の使い分けが絶妙なんだから!) 思わず甘えたくなった気持ちをグッと抑えながらクリスマスに関する話題を振ってみた。 「ねぇ、天眞」 「何」 「明日ってクリスマスだよね」 「そうだな」 「天眞の誕生日だよね」 「そうだけどそれが何」 「凄いね! クリスマスが誕生日だなんて素敵だよね! キリストと一緒の誕生日だなんて本当奇跡みた──」 「何をいっている」 「……へ?」 盛り上がっていた私の言葉は冷め過ぎて凍り付きそうな天眞の硬い声音で固まった。 「クリスマスがイエスの誕生日だと誰が決めた。そもそもクリスマスというのは正しくはキリスト降誕祭。イエスが初めて神の子としてその存在が認められた日というだけで誕生日とは違う」 「……」 「イエスの誕生日は正確には分かっていない。諸説は色々あるが冬至の頃という説が有力だ」 「……」 「あとキリストという名前は正しくない。イエスが人名であって、キリストというのは【(あぶら)をつけられた者】という意味の救い主の称号だ」 「……」 「それにたかが一年365日、閏年では366日分の1の確率の誕生日がたまたま12月25日だけのことでそこまで馬鹿みたいに浮かれるおまえの気持ちが──」 「~~~っ、煩い!」 とうとう堪忍袋の緒が切れて思わず大声で怒鳴ってしまった。
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