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──の、だが
「あら、社長」
「?!」
カウンターの中から見て右手にあるエレベーターから天眞が姿を現した。その瞬間とっさにしゃがみ込んでカウンター内に身を隠した。
「凛子様? 社長ですよ。お会いに──」
「しーっ、静かにして!」
出来る限り小声で彼女を制した。
足音がカウンターの方に近づいて来てやがてよく知った声が聞こえた。
「昼休憩の間少し外出して来ます。14時からの会議は予定通り第2会議室で行いますので来訪した関係者はそちらへ案内してください」
「は、はい。かしこまりました」
「……なんですか? 顔が引きつっていますが」
「えっ、い、いえ……社長がおひとりで外に出かけられるのが珍しいと思いまして」
「そうですか。ではよろしくお願いします」
「はい、いってらっしゃいませ」
遠ざかる足音を聞いて隠れていた私はホッと息を吐いた。
(はぁ~~~気づかれなかった)
「あの……よろしいのですか、凛子様」
「いいの。それよりそんなに珍しいの? 昼休憩に外に出るってことが」
「はい。社長は外出予定のない日は出勤したら退勤するまで殆ど社内から出ることがありませんので」
「ふぅん」
その時ふと思い出した。
(そういえばお昼ご飯は出前取るってメールが来てたっけ)
今、彼女が言った『殆ど社内から出ることがありません』という言葉と私に返って来た出前を取るメール。
何かが噛み合っていない気がして嫌な予感がした。
「あっ、凛子様?!」
「今日私がここに来たこと、天眞には内緒にしておいてね!」
「えっ、あ、はい」
私は慌ててカウンター内から這い出て会社から出て行った天眞の後を付けることにした。
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