暴君と秘密の彼女

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早乙女が負った借金を天眞が一生懸命働いて無くしてくれたと思えば申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいだった。 だから最初こそ嫌で仕方がなかったこの質素な生活だって今では身の丈にあったものだと受け入れている。 ──それなのに…… (天眞、お金持ちになっているじゃない!) それを隠されていたということにも腹が立つし、それになんてったって──…… (昼間の女は誰なのよ!) 結局はそれがこの腹立たしい気持ちの一番の元凶、根幹なのだ。 「ふっ……ふふふっ……」 生憎と私は浮気されてメソメソ泣いているようなしおらしい女じゃないのよ。 (帰って来たらみっちり問い質してやるんだから!) そう決意して高々と拳を突き上げたのだった。 「ただいま」 「お帰りなさい、天眞」 数時間後、私はいつものように天眞を笑顔で出迎えた。天眞はネクタイを緩めながらチラッと私の顔を見た。 「ん? なぁに」 「……いや、何かいいことでもあったのか」 「え、なんでそんなこと聞くの?」 「顔がニヤけているから」 「……」 (いけない……天眞をとっちめることを考えていたらつい顔が緩んだわ) ここに来てから天眞には随分と苛められて来た。もっともその苛めも根幹は愛のあるものだったから許せたけれど。 (でもだからっていつまでもやられっぱなしの私じゃないのよ!) 久しぶりに私が優位に立てそうな瞬間が来るのかと思うとどうしても気持ちが高揚してしまうのだった。
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