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「確かに会社が大きくなっていたのは事実だが、早乙女の全盛期の頃と比べればまだまだ遠く及ばず。俺は早乙女の時と同等か、それ以上になった時に凛子に伝えようと思っていた」
「……」
「以前のように凛子をお姫様みたいに扱えるその日までは──今はまだその時ではないと思っていたから言わなかっただけだ」
「……」
(そうだったのか……別に隠していた訳じゃなかったんだ)
言葉の合間に施される振動が私に甘い痺れをもたらす。
「それと、凛子が俺の浮気相手と誤解していたあの女性だが、あの人は北海道にある坂井水産という会社の幹部だ」
「え……さかいすいさん?」
「社長──凛子の父親が乗っているマグロ漁船の元締めの会社だ」
「お父様の?!」
「あぁ。実は結婚式を挙げると決めた時から社長の居所を探していた。社長にも式に出席してもらいたいと思ったからな」
「……」
(嘘……まさかそんなことを考えてくれていただなんて!)
「社長が乗った漁船会社を突き止めて連絡を取り始めてからちょくちょくあの女性幹部とやり取りをかわすようになった。社長が乗っている漁船と連絡を取るには衛星回線を使わなくてはいけないみたいで、国をまたいだそれらの手続きは色々と大変だったんだ。やっと諸々の手続きが済んでたまたま今日、此方に来る用があった彼女が宿泊しているホテルまで出向いた。そうしたら今、丁度漁船がケープタウンに停泊していて社長と直接話せるからということでパソコンのある彼女の部屋に行ったんだ」
(そう……だったんだ)
全ては私のために……お父様のために……
「で、お父様は?」
「とりあえず健康に問題はないそうだ。すっかり船での生活にも慣れて毎日大変だが充実した時間を過ごしていると笑っていた」
「よ……よかったぁぁぁ~~」
目頭が熱くなり、気が付くとポロポロと涙が零れた。
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