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「先刻から黙って訊いていればペラペラと……蘊蓄はもう結構よ!」
「……」
「私がクリスマスに対して間違った見解をしていたことは謝るわよ! でも……でも!」
「……」
「好きな人の誕生日を祝いたいって、そう思う気持ちが……浮かれているのが馬鹿みたいだって思われるのは心外よ!」
「……」
「~~~天眞の馬鹿ぁぁぁぁ!!」
居た堪れなくて思わずその場から駆け出そうとしていた。──が、後ろから羽交い絞めにされて首筋に柔らかな熱いものが押し当てられた。
チュッと小さく音をたて、それはあっという間に離れた。
「俺のことを馬鹿といったな」
「……!」
「おまえがあんまり可愛い態度を見せるからついからかいたくなった」
「っ」
「無防備に俺を煽るな」
「て、天眞……」
また首筋に温かなものが押し付けられチリッとした痛みが走った。
「あっ」
「そんな甘ったるい声を出すな。我慢出来なくなる」
「!」
「色んな意味を踏まえて今夜は凛子から色々頂くからな。──覚悟しておけ」
「~~~っ」
後ろから抱きつかれているから天眞の表情は見えなかったけれど、きっとまた悪い顔をしているのだろうなと思った。
「分かったか、凛子」
「……うん」
それはほんの短い時間だった。
トンッと体を解放された時には天眞の顔はすっかり元のポーカーフェイスになっていたけれど、私の気持ちは前よりもうんと盛りあがってしまっていた。
(天眞、素敵な誕生日にしてあげるからね!)
そんなことを考えるだけで私は幸せな気持ちに包まれたのだった。
暴君とクリスマス(終)
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