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「今日はもう寝るぞ」
「寝るって、何処に」
「此処に決まっている」
「え……この布団で? 一組しかないじゃない。天眞は何処で寝るの」
「はぁ? おまえは何をいっているんだ。この一組しかない布団に俺とおまえが寝るんだ」
「……」
(え……えぇぇぇぇぇぇぇ──?!)
あまりにも理不尽な展開に口をパクパクさせることしか出来ない。
「ふざけた鯉みたいな顔をしていないでさっさと寝るぞ。灯り、消すからな」
「!」
容赦なく灯りを消され部屋の中が一気に真っ暗になった。
「や、やだぁ! 天眞、豆球点けてよ! 私、真っ暗じゃ怖くて眠れないんだから!」
「俺は真っ暗じゃないと眠れない」
「そんなぁ……」
昔から暗闇が怖かった。だから寝る時はいつも小さな灯りをともしていた。
それが出来ないと言われ心細く泣きたい気分になったその時、いきなり隣からグッと体ごと抱きかかえられた。
「な、何っ」
「こうしていたら怖くないだろう」
「……」
天眞が私を抱きしめながら布団を被せた。
真っ暗な中、聞こえるのは時折水がポチャンと落ちる音とカチコチと音を立てている時計の秒針の音。そして──
ドクン……ドクン……
(天眞の……心臓の音)
押し付けられた耳に届くのは天眞の規則正しく打ち付ける鼓動だった。
(なんだか……安らぐ)
目を伏せ、その音に包まれていると次第に意識が遠のいて行った──。
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