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「お願いです! あと十日……せ、せめて一週間待って下さい!」
その時初めて見た光景に私はとても衝撃を受けた。
あれは私が小学校に入学した年の誕生日に起こった。
お父様に連れられて誕生日祝いの食事に出かけようとして玄関を出た時、見知らぬ女の人が屋敷の前で土下座していたのだ。
「おい、誰が此処まで入れていいと言った!」
「社長、すみません! ちょっと目を離した隙に入り込んだみたいで……おい! 此処はおまえみたいな人間が入っていい処じゃねぇぞ!」
「お願いします、お願いします! どうか……どうか期限を……」
女の人はどんなに罵られても小突かれても頭を上げず、ひたすら何かをお願いしていた。
「お父様、この人、何してるの?」
「見苦しいものを見せてしまったな、凛子。おまえは見なくていい。さぁ、行こうか」
お父様に手を引かれて車に乗り込もうとした時、ふと目の端に入ったものがあった。それは男の子だった。
(あの子……)
柱の陰から女の人を泣きそうな顔で見ている男の子がいたのを見つけた。
幼稚園も小学校も女の子ばかりで、同年齢の男の子を見たことがなかった私は物珍しく思い、お父様の手を振り解いてその男の子の処に寄って行った。
「ねぇ、名前、なんていうの?」
「!」
間近で見たその男の子は女の子みたいだった。パッチリした目に小さな鼻に形のいい唇。
(お人形みたい!)
着ている物は汚くてそこだけ見れば何てことないのに、顔を見ると等身大のお人形みたいだと思った。
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