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「この屋敷も借金の抵当に入っていますので出来るだけ早く立ち退く準備をしてください」
「は?」
「聞こえませんでしたか? 凛子様はもうこの屋敷に住む事は出来ないと言っているのです」
「……」
え
え
(えぇぇぇぇ──! 何、それぇぇぇぇ──!)
私は早乙女凛子。この春、短大を卒業して花嫁修業中という名の自由気ままな毎日を送っていた。
早乙女家は膨大な土地を所有する大地主であり、代々金貸しを生業として大きくなったいわゆる資産家だった。
その早乙女家の現当主である早乙女順三郎のひとり娘が私だ。
私の父は早乙女家の三代目で、早乙女家の栄華は昔と変わらず現在でも遜色なく色濃く栄えているのだとばかり思っていたのに──……
「実は数年前から少しずつ衰退していたのです。傘下の子会社から順に潰れて行き、そしてとうとう本社の営業もままならなくなりました」
「な、なんでそんなことに」
「ひとえに社長のワンマン経営のツケでしょうね」
「ワンマンって」
「凛子様はご存知ではないと思います。社長はひとり娘の凛子様を溺愛していましたから決して裏の、本当の顔を見せたことはありませんでした」
「裏の顔?」
「社長は高利貸しの負債者に対しては徹底した厳しさで取り立てを強攻していました。情けを一切掛けずにどんな手段を取ってでも借りたものを返させていました」
「……」
「そして時には死人が出る事もありました」
「!」
(まさか……そんな……)
私にとって父は甘くてべったりでどんな我がままも訊いてくれる優しい父という印象しかない。
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