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私の肩を叩いたのはありがちな制服を着こんだ警備員だった。どうやらオロオロキョロキョロしていた私は不審者だと思われたようだ。
「失礼ですがご用件を窺っても宜しいですか?」
「あ、あの、あの……わ、私は……」
あまりにも驚き過ぎて上手く言葉が出てこない。そんな狼狽えぶりが益々怪しく映ったのか、警備員の表情はより一層険しくなった。
「申し訳ありませんが少し此方に来ていただけますか」
「!」
ガッシリ腕を掴まれ何処かに連れて行かれそうになった瞬間──
「凛子様?!」
遠くから聞こえた声に体が撓った。
(誰?!)
私と警備員の元に駆け寄って来たのは先ほどカウンター内にいた女性のひとりだった。
「まぁまぁ……まさか凛子様が!」
「えっと……あなた、は?」
「お忘れですか? 以前早乙女家で侍女をしていた牧山です」
「……へ? まきやま、さん?」
「凛子様の身の回りのお世話をさせていただいていたのはほんの一年足らずですが……覚えておいでではないんですね」
「……」
突然の展開に再び茫然としてしまった。
私が茫然としている端で牧山と名乗った女性が警備員に何かを伝えていて、それを訊いた警備員は酷く驚き、そしていきなり私の前で土下座して謝り始めた。
「も、申し訳ございません! まさか加々宮社長の奥様だったとは!」
「は? お、奥様ぁ?!」
此処での私の肩書きがとんでもないものになっているのにまた驚き、そして訳の分からなさの渋滞を起こして頭の中がパニック状態になってしまった。
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