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「何だい?」
「アスラトルへは観光ですか? いや、仕事かな。流暢なエルシーア語ですし」
「はは、俺の容姿はここらじゃ……目立つもんな。ま、仕事って言っとこうか。シャイン……あんたは、海軍の士官なんだな。随分若いのにたいしたもんだ」
そんなことを褒められても(お世辞でも)、シャインは少しもうれしいと感じなかった。むしろ、酒のせいでやっと高揚した気分が下がった。
「……軍人なんて、つまらないさ」
吐き捨てるようにつぶやくと、シャインは酒ビンを再びあおった。
大きく息をついて、視線を宙に彷徨わせる。
「だが、仕事に見合うだけの収入はあるようだし、根無し草の俺にとっては、実にうらやましい限りだぜ?」
シャインの機嫌をうかがうように、ヴィズルは優しく話しかけた。
「うらやましい? それは俺の方ですよ。あなたは……好きな時に好きな所へ行ける……」
「そりゃ、そうともいうけどな」
「俺は……ずっとあの人に縛られている」
「シャイン」
今まで微笑を絶やす事なく、笑顔だったヴィズルの表情が曇った。
それに気がついたシャインは、慌てて彼の方を向いて取り繕った。
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