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「ま、どうせ明日になればシャインも来るわね。それより……」
ロワールはまじまじと右隣に係留されている、ロワールハイネス号よりやや横幅の広い三本マストの縦帆船(スクーナー)へ視線を向けた。
船体とマストは漆黒のペンキで塗装され、実際の大きさよりもっと大きく見える。
だが手すりは金色のそれで塗られており、船首から船尾までこれまた金色のペンキで、すっとラインが引かれている。
沈みゆく夕日の光に、それが鈍く反射して茜色に光っているのがちょっとまぶしいが、全体的に黒い船体のせいか厳めしさを感じる。
「あら、あの船も……?」
ロワールは思わず口を開いた。
違和感を覚えるあるものが視界に入ったからである。
その黒いスクーナー(船名はクレセントと読める)は、まるで貴婦人の帽子についているリボンのように、青緑色の細長い旗を中央のメインマストに翻していた。
エルシーア海軍の軍旗であるそれは、エルシーアの海を示す青碧色に、錨と剣を組み合わせ、その周囲を金色の錨綱がぐるりと取り巻いている紋章が描かれている。
そして船尾の手すりには、これまたロワールの背丈を超える長い旗竿が設置されており、祝賀用の赤と金のエルシーアの国旗が重た気に風を受けて、申し訳程度にはためいている。
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