【幕間2】 船霊祭 -陸に上がった人魚-

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「私も泣きたいわ。もう船に帰ろうかしら」 「……」  沈黙。  ロワールは顔を上げた。シャインが何も言わない事に腹を立てつつ。  だがその感情はすぐさま消えてしまった。  シャインはロワールに背を向けて、机の端に両手をついてうつむいていた。頬にかかる長い前髪を払おうとせず、同じ色をした睫を伏せて、薄い唇を軽く結んでいる。  どうかしたのかと話しかけようとしたとき、ゆっくりとシャインが目を開けた。  机の一点をひたと見つめたまま口を開く。 「――彼女に会ったのか?」  ささやくように、けれど押し殺すように吐き出されたその声が、今までのとぼけた彼の雰囲気をかき消した。
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