87人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの二人が何を君に言ったのか知らないけど、ディアナ様は王女を馬車に乗せるために、わざと婚約者のふりをしてくれたんだ。だから、彼女とは――」
「『なんでもない』っていう風には、見えなかったわよ」
「……」
「だってあの人――泣いていたんだもの」
ロワールがすかさず釘を刺すと、シャインは何か言いたげに唇を歪め、再び机の縁に寄りかかった。視線を床に落とし、右手を上げて頬に当たる前髪をかき上げる。そして小さく肩を上下させながら息を吐いた。
「俺は、彼女の気持ちに応える事ができない。だからそれが彼女の心を傷つけることになっても、そう言わねばならなかった」
「要するに、シャインは彼女のことが好きじゃなかったのね?」
「……ロワール……」
シャインは顔を上げ、ロワールの眼差しを受け止めると、否定するようにそっと首を横に振った。
「そういう風に決めつける程、人の心は単純じゃないよ」
最初のコメントを投稿しよう!