87人が本棚に入れています
本棚に追加
「だって、俺は軍人で船乗りなんだぜ? 彼女のいるエルシーアから遠く離れ、何ヵ月も海を航海して、時には危険な任務につく事だってあるんだ。俺だって、愛する者と長い間離れて過ごすのはとても寂しいんだ」
「……だったら軍人なんて、辞めちゃえばいいじゃない?」
ロワールは両手をドレスのたっぷりとしたひだが寄せられている腰に当て、ふうとため息をつきながら言った。肩に流れる赤毛の房を手で払い、水色の瞳を細めてシャインを見つめる。
「愛する人のために、船を降りたっていいじゃない?」
シャインは大きく頭を振った。
「――そんなこと、できないさ。そんなことができれば」
シャインはロワールから顔を背け、座ったまま両腕を組んだ。
「あの人がそれを許してくれるのなら、俺はとっくに軍人なんて辞めてるさ」
「……」
ロワールはしばし、気分を害したように腕を組み、じっと床を見つめるシャインの顔をながめていた。
その横顔を見れば見るほど、心の中にもどかしさが募った。
最初のコメントを投稿しよう!