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◇◇◇
船霊祭の夜が明け、アスラトルの軍港一体は白い朝靄に包まれていた。
「おはよう、ロワール。昨夜は楽しかった?」
ロワールは右舷の黒いスクーナー船の甲板に姿を見せた、黒髪の女性に視線を向けた。クレセントだ。
「おかげさまで、楽しかったわ。あなたには……少しだけ感謝してる」
ロワールは軽くため息をついて、クレセントに近付くべく船縁へ寄った。
クレセントは自分自身である船の手すりに両手を預け、ややつり目ぎみのそれをさらに細めてロワールを見つめている。
「少しだけーー? にやにやと気持ち悪い薄笑いを浮かべてるくせに。何してたのよ。グラヴェール艦長に会ったんでしょ? 教えなさいよ」
ロワールは三リール先にいるクレセントに向かって身を乗り出した後、満面の笑みを浮かべて舌を出した。
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