3-10 ヴィズルの憂鬱

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 修理をすっかり終え、船体の化粧直しまでしたロワールハイネス号は、新たに命じられた任務につくためアスラトルの港を出港した。  エルシーア海の深いターコイズブルーの波を切り裂くように、彼女は快速船にふさわしい速度で進んでいく。  船首の三角帆を三枚と、各三本のマストに二枚ずつ上げられた輝かんばかりの白い帆は、まさに翼となって船を羽ばたかせているようだった。  ロワールハイネス号の後部甲板で、帆の張り加減を見ていたシャインは、具合よく風をはらむそれに満足し、後ろを振り返った。  そこには指示を待つ、士官候補生のクラウスが控えている。 「今日は風が安定しているね……このまま後一時間、南東を維持しよう」 「了解しました。針路、南東維持です」  クラウスは命令を復唱すると、後方で舵輪を握る航海士の元へ走っていった。  それを見送ったシャインは、前部甲板で帆の調整をしている副長、ジャーヴィスに指示を出すため階段を下りた。
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