3-10 ヴィズルの憂鬱

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 ◇◇◇ 「艦長より申し送りです。針路、後一時間、南東を維持です」 「了解した。針路、南東維持」  二ヶ月限定の新・航海長(マスター)ヴィズルは、命令を伝えたクラウスへにやりと笑い、内容を復唱した。  そして隣で舵輪を握っている次席航海士のグラッドに声をかける。 「グラッド、南東だ……ちょい船首を風下へ落とせ」 「了解、航海長」  グラッドは舵輪を右に大きく回して船の反応をみる。  目の前にある木製の羅針儀箱におさめられたコンパスをのぞき、その針が<南東>へ示すようにする。  針が南に行き過ぎないように、常に南東を指すように、船の動きを先読みして舵を取るのだが、そのあたりのカンが経験と正比例するのだ。
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