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「まあ、それが元々の『船霊祭』のいわれなんだけど、『船霊祭』の夜は港の夜景がとてもきれいなんだ。王都ミレンディルアから去年はミュリン王女も視察に来たくらい、街は観光客で溢れる。
アスラトルの街は三日月を象ったランタンを家の軒下に飾って、海で亡くなった人が帰ってくる目印にする。そして今は無き、名のある船の模型が飾られて、その歴史と雄姿に思いを馳せる。港で停泊している船もこの日の夜はずっと明かりを灯すんだ」
「そう――お祭りっていうのが、なんとなくわかったような気がするわ」
ロワールはシャインから顔を背け小さく呟いた。
「じゃ、楽しんできて。きっとあの人、喜ぶわよ」
「ロワール」
鮮やかな紅の髪を揺らしながらロワールがふわりとその身を中空に躍らせた。
彼女の肩を掴もうとしたシャインの右手は誰もいない空間を掻く。
「約束したんでしょ。ちゃんと守らなくちゃだめよ?」
ロワールの声が甲板に響いた。
シャインはメインマストをその青緑の瞳を見開いて見上げていた。
ホープにはロワールの姿がそこには見えなかった。
けれどシャインは目が痛くなるほどマストを見上げ続けていた。
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