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シャインは口元をわずかに歪ませてうつむいた。
心を読む船の精霊に、口から出る言葉は不要だと感じながら。
衣擦れの音をさらさらと立てて、精霊がこちらへ近付いてきた。
頬にひやりとするなめらかな指が添えられて、シャインはおずおずと顔を上げた。
深い深い海の底のような色をした、ファスガードの瞳が目の前にある。
「あなたは、他人の痛みも自分の痛みに変えてしまうのね。だけど、一緒に来る事は許さないわ。あなたには、あなたを待っている者がいる。その者のために、私はあなたに生きて欲しい」
ロワール。
シャインはファスガードの瞳を見つめたまま、両手をぐっとにぎりしめた。
彼女は静かな微笑をたたえたまま、目をやんわりと細めた。
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