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◇◇◇
船尾の開口部から出たシャインは、フォアマストを焼きつくし、メインマストに向かって燃え移ろうとする紅の炎に身を固く強ばらせた。
どうやら船首の下層部でくすぶっていた火が、ついに甲板まで達したのだろう。
熱風が上空に昇る気流を作って、帆を焦がした小さな火の粉が天へひらひらと舞い上がっている。
ファスガ-ド号の甲板は静まり返り、人影は見当たらなかった。
全員、下ろしたボートへ乗る事が出来たのだろうか。
そんなことを考えつつ、シャインは左舷側の暗い海へ視線を向けた。
確かにそこへ、ロワールハイネス号がいたのを見たのだ。
しかし今は、どこにもあのほっそりとした美しいスクーナーの影はない。
「……!」
シャインはふと気配を感じて、背後を振り返った。
舵輪のある船尾楼の手すりから、身を乗り出すようにして、長い銀髪をひるがえした男が立っていた。
見覚えあるその姿に、シャインは心ならずもわずかな安心感を覚えた。
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