87人が本棚に入れています
本棚に追加
ヴィズルは濃紺の航海長の上着を着ていなかった。
初めて出会った時と同じ、袖がない赤皮のジャケットを羽織り、白いシャツの襟を立てて、丸い飾り金具をつけたブーツの中に、細身のズボンの裾を入れこんだ格好だった。
そしてファスガード号とエルガード号が撃ち合った事で、用心のためか武装していた。腰のベルトには、使い込まれた厳めしい長剣が吊るされている。
ヴィズルは長剣を足に絡まらせることなく、こちらへ颯爽と歩いてきた。
呼吸するのと同じように……慣れた様子で。
シャインは口でああは言ったものの、ヴィズルが何故ここにいるのか分からず戸惑っていた。
ジャーヴィスが自分の代理でファスガード号へ来たのだから、当然、その代わりにヴィズルが、ロワ-ルハイネス号の面倒をみているはずなのだ。
だが肝心なロワールハイネス号自体、その姿がどこにもない。
これはどういうことなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!