3-26 燃えさかる甲板で

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 ヴィズルは濃紺の航海長の上着を着ていなかった。  初めて出会った時と同じ、袖がない赤皮のジャケットを羽織り、白いシャツの襟を立てて、丸い飾り金具をつけたブーツの中に、細身のズボンの裾を入れこんだ格好だった。  そしてファスガード号とエルガード号が撃ち合った事で、用心のためか武装していた。腰のベルトには、使い込まれた厳めしい長剣が吊るされている。  ヴィズルは長剣を足に絡まらせることなく、こちらへ颯爽と歩いてきた。  呼吸するのと同じように……慣れた様子で。  シャインは口でああは言ったものの、ヴィズルが何故ここにいるのか分からず戸惑っていた。  ジャーヴィスが自分の代理でファスガード号へ来たのだから、当然、その代わりにヴィズルが、ロワ-ルハイネス号の面倒をみているはずなのだ。  だが肝心なロワールハイネス号自体、その姿がどこにもない。  これはどういうことなのだろう。
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