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「さ、こんな所に長居は無用だぜ。行こう」
また一歩近付いたヴィズルは、いつものちょっとおどけた表情と声色でそう言うと、皮の手袋をはめた右手をシャインへ差し出した。
「……そうだね」
ほっとしたシャインは、右手を伸ばそうと腕を上げた。
『だめよ! 早く離れて!』
「ロワール?」
頭の中をえぐるように声が響いた。
シャインは痛む額を上げかけた右手で押さえた。ガタがきていた足がふらついて、ラフェールの剣の重みのせいで上半身が左によろめく。
その時シャインは、自分の右脇腹の下をかすめてゆく銀の刃を目にした。
刀身と同じ、鋭い光を宿したヴィズルの瞳と共に。
シャインは右足に力を込めて、前のめりになりかけた体勢を何とか立て直すと、振り返りざまにヴィズルから離れた。
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