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◇◇◇
同時刻。海軍省の二階にある総務部の待合室は、航海を終えて帰ってきた士官や水兵、新規入隊希望者で混雑していたが、日が傾くと共に、そのピークは終わりを告げようとしていた。
ロワールハイネス号副長ジャーヴィスが待合室の緑色の扉を開けた時、濃紺のビロードの長椅子へ腰掛けていたのは十人にも満たなかった。
「なんだ……お前達、いたのか」
その声に壁際に座っていた水兵達が一斉に顔を上げた。
待合室にいたのはロワールハイネス号の乗組員だった。
「副長、ぎりぎり間に合いましたね~」
やけに馴れ馴れしく声をかけてきたのは、士官候補生のクラウスだった。
彼は椅子の上に大きな鞄を二個ものせていた。
「……家に帰るのか」
「はい。お給料をもらったので、ちょっと両親へお土産を買って……それで」
少し照れたようにクラウスは頬を赤らめた。
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