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「生存者がいないか、もう一度船の回りを見てみます」
イストリアの声でシャインは我に返った。
「あ、ああ……そうだね」
海水を吸った航海服の重さに辟易しつつ、シャインはその場から立ち上がり、船尾で舵を取るイストリアの左隣へ静かに腰を下ろした。
ボートはマストを立てる事ができて帆を張れば帆走が可能だ。操船は舵輪と同じ役割をする、船尾にある舵柄という棒を左右に動かして行う。
水中の舵は舵柄と連動して動くので、それで船の向きが変わる。
「ボートを漕げ。ゆっくり行くぞ」
イストリアの命令で、水兵達はそろそろとボートを漕ぎ出した。
その向きが再び炎上するファスガード号と対峙するように変わる。
細い銀色の月<ソリン>が瞬く闇の海で、ファスガード号は船首を波に深く沈め、先程までシャインがいた船尾の後部甲板だけが浮いていた。
まるで巨大なかがり火のように。
てらてらと揺れる炎に彩られた海面には、船の残骸の一部である木片や樽が無数に浮き、波にぶつかっては流れていく。
時折火が海水に触れる事で、じゅわっという耳障りな音が聞こえた。
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