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「誰か! 誰かいないか!」
水兵達が口々に呼び掛ける。
それを聞きながらシャインは、船尾の船底に置いてある真鍮製のカンテラを見つけ取り出していた。
ずっしりとした重さから油はたっぷり入っているようだ。
カンテラが使えることを確認して顔を上げると、シャインはふと目に入ったボートの一角を、思わず呆けたように見つめた。
ボートの中ほどの右舷側。生存者がいないか、海面を見つめる水兵達の合間に見覚えのある大柄な男と目が合う。
彼は窮屈そうに背中をボートの縁へ押し付けながら、豊かな口ひげを生やした顔に微笑を浮かべていた。
しっかりと毛布にくるんだジャーヴィスを支えながら。
シャインは胸に安堵の気持ちが広がるのを覚えながら、退船の際にジャーヴィスを託したひげ面の海兵隊長に頭を下げた。
約束を果たしてくれた事がうれしかった。
ボートの中は身動きできる空間が限られているので、今ジャーヴィスの所へは行けない。
だが同じボートに乗れてほっとした。おそらくイストリアが気を回してくれたのだろう。
シャインはカンテラを船底に置きながら、そっと目元をこすった。
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