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「さあ皆、漕ぐんだ。できるだけ早く定期航路へ出なくてはならん! マストを立てろ。帆を張って、針路を北西へ向かえ。はぐれてもひたすら北西へ進むんだ!」
ファスガード号の生き残りを乗せた八隻のボートは、暗い海に帆を上げ移動を開始した。
「夜が明けたら舵を交替しましょう。ですから、先にお休み下さい」
イストリアは相変わらず仏頂面だったが、その声は自分を気遣っている響きがあった。
シャインは顔に当たる海風に、頬の筋肉が強ばるのを感じながら微笑んだ。
「ありがとう。でも気が昂って眠れないんだ。だから君が先に休んでくれないか?」
イストリアはしばしシャインの顔を見ていたが、息を吐くとゆっくり立ち上がった。
「じゃ、そうさせてもらいます。代わりたくなったら何時でも起こして下さい」
シャインはイストリアと席を代わった。
舵柄に両手をしっかりと添える。
イストリアはしぶきがかかる船縁を気にしつつ、その体を丸めて疲れきったように頭を膝の上にうずめた。数分としないうちに、小さな寝息が聞こえてきた。
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