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「聞いたかい? お土産だって」
「俺はもう~お袋の顔、何年見てねぇかな……」
水兵達は少しふざけながらも、感心したようにつぶやいた。
「は、お前達も見習ったらどうだ? ほとんど酒代に消えるんだろうが」
ジャーヴィスの痛烈な批判に、水兵達は肩を落としてシュンとなった。
「……私も初任給を貰った時は、うれしくて実家へ手紙を書いたな」
ふっと鋭いジャーヴィスの瞳が細められた。
あの頃を懐かしむように。
クラウスは立ち上がり、例の鞄を両手に下げた。
「じゃ、僕はこれにて失礼いたします」
「ああ、気をつけてな。たった十日ばかりだが、せいぜい羽根をのばすがいい」
クラウスはうれしそうに晴れやかな笑顔をジャーヴィスに向けた。
「副長も……いつも気苦労が絶えませんから、ゆっくりして下さい」
思ってもみなかった候補生の言葉に、ジャーヴィスは少し動揺して、言葉を詰まらせてしまった。
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