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◇◇◇
気付くと俺は、暗い夜の闇に覆われた海で、ひとりボートに乗っている。
どろりとした――それでいて滑らかな海面には、大小様々な木材の破片がいくつも浮かび、不規則な波にのってボートの船腹を叩いていく。
俺はこんな所で、何をしているのだろう。
右手で何故か青白い炎をあげるカンテラを掲げ、黒い闇色の海を――その薄暗い明かりではとても中を見通すことはできないが――それでも俺は、深い深い海の中を、深淵を、狂おしく覗き込んでいる。
「……か、……いな……か……」
口の中は干涸びて喉の奥がいがらっぽい。それでもやっと絞り出した声は年寄りのようにかさついて、俺のものではないみたいだ。
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