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「誰か、いないか……」
俺は探している。
波の音さえも聞こえないこの真っ黒な海で。
何か、を。
誰か、を。
「誰、か」
俺はさらに船縁から身を乗り出し、カンテラを海面へと近付ける。
滑らかな動きを繰り返す波が、ほんの僅かだけ明るさを増した。
「……」
望んでいた声が聞こえたような気がする。
助けを求めている、幾つものそれが。
この暗い海に沈んだ――いや、俺が沈めるように命じた、エルガード号の生存者たちが、このボートの下の海から俺を呼んでいる。
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