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俺は海面すれすれまで顔を近付けた。ただの黒い闇がうごめいているような海が、カンテラの朧気な光を受けて濃紺へと変わっていくのが見える。
青い。
どこまでも果てしなく落ちていくような――青い深淵。
その淵を覗き込んだ時、俺は左手を伸ばしていた。
助けを求めるその白い腕を掴もうとして――。
ボートへ引き上げようとしたその手は、いつしか俺の航海服の襟を掴み、音も無く一気に海中へと引きずり込んだ。
「やめろ。俺は君を助けたいんだ」
だが俺の航海服の襟を掴む、目の前の青ざめた顔は、真っ赤な口腔を開けて微笑した。
「だったら何故助けにこなかった。何故、俺達を砲撃したんだ」
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