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シャインは無意識のうちに暗い階段を昇り、ウインガード号の上甲板に出ていた。
後方から吹く風はウインガード号の大きな四角い帆を膨らませ、小気味よく船を走らせている。夜空はどこまでも黒く、遠く、そして二つの金と銀の月が小さく並んで昇っていた。
シャインはどこに意識を向けるわけでもなく、人気のない後部甲板の左舷側へと近付いた。双子の月は出ているのに、そこから見える海は波濤のきらめき一つなく、まるで夢で見た闇の海のようだ。
シャインは船縁から身を乗り出して黒い海面を見下ろした。
ひたすら目をこらした。
整える事を忘れた髪が肩から滑り落ち視界を覆った。
シャインはそれを右手で押さえ付け、再び食い入るように海を覗き込んだ。
何も見えない。
見えるはずがない。
こんなに暗くては――。
何か、明かりを持ってこないと……。
『それ以上身を乗り出すと危ないわよ』
背後で女の声がした。
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