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『そうね。死の苦しみは一瞬だけ。でも生きていれば、それは一生続く』
シャインは突如胸の上に氷がのせられたような冷たさを感じた。
手だ。
胸の上に置かれた手からシャツ越しに、しんしんとした冷気が伝わってくる。まるで心臓の鼓動をじわじわと止めようと言わんばかりに。
思わず両目を見開くと、目の前には青白い月光に照らされた、見知らぬ若い女の顔があった。さらさらと流水のような音を立てて、漆黒の長い髪がむきだしの肩の上に流れ落ちている。
その髪は長く女自身がひきずる影のよう。
黒い古風なドレスをまとった女はシャインの傍らに跪き、肘までの長い黒手袋をはめた手をシャインの左胸に置いて、顔を覗き込んでいた。
黒い睫毛に縁取られた切れ長の瞳は、鏡を思わせる透き通った銀。
淡い紫の紅を引いた唇からは、朽ちた薔薇の香りがした。
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