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御者はシャインが隣に乗り込んだのを確認してから、白い馬にひとむち当てて馬車を走らせた。
「……軍人さん、グラヴェール家のお知り合いで?」
シャインは話しかけてきた御者をうっとおしく感じた。
が、そんなことはおくびも出さず、前を見たままうなずいた。
「ちょっと用事があってね」
「ふーん……」
御者はまじまじとシャインの顔を見つめた。
「何か?」
少し刺を感じるその言い方に、御者はあわてて愛想笑いを浮かべた。
「いえ、今日はグラヴェール家のお屋敷は、観光客出入り禁止なんですよ。だから、一族の方々がお集りになるのかな~と思いましてね」
「観光客?」
シャインは御者の問いには答えず、反対に聞き返した。
馬車は古都アスラトルの街を<東区>と<西区>に分けている、エルドロイン川の石橋へ差しかかった。川岸沿いにある造船所からはうっすらと白い蒸気が上がって、黄昏の空へ雲のようにたなびいていた。
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