3-3 想いはエルシャンローズと共に

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 石橋を渡り終えた馬車は居住区を抜け、がたことと小高い丘を登っていく。左手には夕日に染まるエルシーアの海が見えている。 「おや? 軍人さんは御存知ない? アスラトルへ来たばかりですか?」 「いや、ずっと船に乗っていたから……」 「ああ、そうですね。ご苦労さまです。で、観光客の件ですが、ほら……この七の月は、エルシャンローズが咲く時期じゃないですか。グラヴェール家のローズ園は隠れた名所でね。初代当主の造った物らしいが、それは見事な花が見られるんですよ。現当主のアドビス樣は心の広い方で、ローズ園に限り、どんな人でも花を見られるよう、解放していらっしゃるんです。昨日なんか三十人ご案内したんですよ、私」  シャインの顔は前髪が落とす影のせいで幾分青ざめていた。  だがおしゃべりな御者はそれに気付く気配がない。
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