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「あのグラヴェール中将が、花を愛でているとは知らなかった」
御者が意味ありげに含み笑いをした。
「ふふ……初めにローズ園へ人々を招いたのは、奥方のリュイーシャ様さ。エルシャンローズを、大層気に入っていらっしゃったそうですよ。もう亡くなられたのが残念ですが」
シャインは思わず膝の上で両手を固く組んだ。
突然出てきた母親の名前に、胸の奥が疼くような痛みを感じた。
御者はあれこれとローズ園の事を話してくれたが、シャインはほとんど上の空で聞いていた。
母親のことをシャインはほとんど知らない。
知っているのは、丁度今の自分の年齢――二十という若さでこの世を去ったという事だけだ。
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